――古の都、奈良。
天下の東大寺。
そこには、大変興味をそそるものが売られていました。





- Animato -





「うーん・・・」
、買うか買わないかくらい早く決めてよ」

遠くに見えるみやげ物売り場を眺めながら立ち止まるを、が急かす。

最初にこの売り場を見たのは、南大門をくぐってすぐ。
が目を留め、とりあえず廻ってから考えようと中を見学し、戻ってきてもはまだ決めていなかった。

「あ、スガたち、いいところに!」

考えていても周りは見えるもので、は少し声量を上げると彼に向けて手を振る。
向こうもそれに気付いたのか、振り向くと笑顔を浮かべて近付いてきた。

「どうしましたかー?」
「スガ、木管同盟でこれ買わない?」

が指差した先。
そこには、竹製の縦笛と横笛が売られていた。

「笛・・・ですね」
「そう。150円。すごく気になる」
「は、こんなの買うの? しかもあの笛、外で売ってるのだと100円だぜ」
「山口は金管なんだから黙ってなさい」
「木管五重奏には出てるだろ」
「そんなの木管だなんて認めない」

横から口を出した山口を、が軽く睨んで言い返す。

「でも、本当に100円ならここで買わないほうがいいんじゃないですか?」
「あのね、ここのは東大寺シールが貼ってあるの。ほら」
「ああ・・・なるほど」

音を出す窓の部分のすぐ下には、確かに銀色の丸いシール。そこに見えるのは『華厳宗東大寺』の文字と本堂を模したイラスト。
ね? とは得意そうに指し示して見せた。

「いいですよ、買うの」
「やった、スガならそう言ってくれると思ったー」

ぱ、との表情がほころんだ。



***



「・・・ちょっとちょっと、一回交換。何で音出んの?」
「何でって・・・普通に出るけど」
「えー・・・」

不満そうな声色での笛を受け取る。一息だけ入れてから「えー」とまた小さく声を漏らし、再びその笛を吹き始めた。
縦に7つ空いた小さな穴を順番に押さえ、不均等に並ぶ音を一音ずつ下げていく。

「何でのはちゃんと吹けんのー!? 私のハズレ?」
「ああ・・・、日頃の悪い行いが祟ったね」
「私に限ってそんなことがあるわけ・・・あ」

しゃべりながらも器用に自分の笛をいじり回していたが小さく声を上げた。
「心当たりでもあった?」とが声をかけると、「まさか」と笑いを含んだ返事が来る。

「窓を押さえるとちゃんと音が出る! 気がする!」
「・・・なにその『気がする』って」
「本当だってばー。これで低い音も出るはず・・・どれで穴ふさごう」

は鞄の中をごそごそとかき回す。

「セロテープとかないの?」
「持ってない」
「その東大寺のシールをはがして貼ればいいんじゃないですか?」
「えー・・・」

須釜の言葉を受けては笛に貼ってあるシールをまじまじと見た。

「それを窓に貼れば、シールも目立って一石二鳥ですよー」
「・・・東大寺シールは東大寺シールの場所にあってほしいんですー」

シールから視線を外して、はぁ、とひとつため息をつく。
「セロテープ・・・セロテープ的な何か・・・」と小さくつぶやいていた彼女は、ふと動きを止めるとやおら財布を鞄から出す。

「セロテープ買うの?売ってないよ?」
「ちがうよ」

の問いに軽く首を振りながら答え、は財布の中から小さな長方形の白い紙を取り出した。

「セロテープは持ってないけどー、テープっぽいのは持ってたの思い出した」
「テープって・・・絆創膏にしか見えないんですけど・・・」
「しかもバイキンマンだよ。かわいいでしょ」
「その絆創膏いいですねー」
「でしょ? やっぱスガは話がわかるよね」

楽しそうに笑いながらは台紙をつけたまま絆創膏を窓に当てた。
そして両膝で笛を固定すると、前かがみになって真剣な表情で台紙をはがす。
両手の薬指と中指で手を軽く支えながら、絆創膏をそっと最初に当てた位置に押し付けた。

「出来た! かわいー」

満足げな表情で再び笛をくわえて息を吹き込む。
一音、澄んだ音が響いた。



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++あとがき++
買いました。東大寺で。
あとで他のところだと100円、ていうのを知ってショックを受けたのですが…東大寺のシールがある、と言うことで無理やり納得した覚えが。
でも東大寺シール1枚貼ってあるだけで50円は高いと思う。

2010/01/03