の 君 ・ あとがき



※本編のネタバレ含みます。ご注意下さい。








時代物・平安編の『朝霧の君』、勢いで書き上げました。
今回は短めに全5話。お相手は笠井。

読んでいて分かった方もいらっしゃると思うのですが、この話は古典の「大和物語」を土台としています。
ええ、もう完全に大和物語です。ちなみに一五五段。

塾の教材に載っていた大和物語を読み、杠葉が泣いたところからこの話は作られました。
とてもいい話だと私は思っているのですが、その「いい話」の感じを出せませんでした・・・。
ごめんなさい、原作者様。大和物語は作者未詳だけれど。

出典が短い話なので精々3話くらいで終わるかな、と思っていたのですが、予想外の5話完結となりました。
前半でぐだぐだしすぎたのが原因かな、と。
特に第1話が、完全に創作されたので。


因みに、創作した(原作と違う)のは次の点。

・ 姫君が『朝霧の君』と噂で囁かれている
   → 『朝霧』の呼称は、実際はどこにも出てきません。「あさぎりの」が、「惑ふ」「乱る」にかかる枕詞なので採用。

・ 竹巳が花の宴で、姫君を見てしまったこと
   → 「いかでかみけむ(どのようにして見てしまったのだろうか)」が原作。桜は雰囲気作りのための杠葉の創作です。

後はおおむねそのまま。

それにしても我ながら思うのは、4話から5話への話の飛び方。飛躍しすぎじゃなかろうか。
でもここを補完するには私の想像力が足りなかった・・・っ。書いてたら全然終わらない気もします。



さて、大和物語で話を書こう、ということで一番悩んだのは相手役、つまり内舎人を誰にするかでした。
一目見た姫君に恋焦がれて恋焦がれて、病気になるほど好きになって、ついには誘拐までしてしまう人。そして死んだ姫君の後を追うように死んでしまう人(しかも自殺じゃない)。
しかも結局やることはやってる(笑)。姫君孕ませちゃうんですから。

・・・悩みました。
ぶっちゃけ、誰でも良かった。だって時代が違いすぎて、そういう究極的な「恋は盲目」を体現してくれそうな人がいないんだもの。
というわけで、笠井にしたのはじつはあみだです。
書けそうな人リストアップして、あみだくじ。
それで彼になるんだから、私の運も凄い気がする。

出典が出典だけに二人が死んで終わる、という結末を避けられなかったのが可哀想なところです。
まあ、ある種ハッピーエンドなのだと私は思っていますが。

「大和物語」古文で読んでいない方は、ぜひ読んでみてください。
中学高校なら、学校でやる機会もあるかもしれませんね。
どこまで原作に忠実かわかると思います。というか、これ読んでおけば内容に関してはテストで100点取れること間違いなし(多分)。
でも絶対に古文の方がいい話です。

というわけで、この話の原文の宣伝であとがきを終わりにします。
ここまで読んで下さったみなさま、本当にありがとうございました。


2007/05/10 杠葉 和 拝

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おまけ。
姫君が詠んだ歌、「あさかやま かげさへみゆる山の井の あさくは人を思ふものかは」
全部漢字に直せば、「安積山 影さへ見ゆる山の井の 浅くは人を思ふものかは」。

上の句は「あさく」を引き出すための序詞。「山の井」は、岩などの間で湧き水が溜まっている所。「かは」は反語の助詞。

「安積山の姿までも映って見える山の井が浅いように、浅い心であなたを想っていたでしょうか。いいえ、私は深くあなたを愛していたのです」

以上が歌の意味です。
本編で載せると興醒めなので、こっそりとここに。