約束。
私があなたに望んだように。
あなたが私に望んだことを。
守れるように。





Lacrimosa.47






「で、結局、私たちはあんたのわがままに振り回されてたって訳!?」

日がすっかり落ちてしまい、人影のなくなった正門。
そこで説明を聞き終わったに詰めよった。
胸倉を掴みそうな剣幕に気圧されてが一歩後ろへ下がる。

「まあ、、落ち着いて。ごめんね」
「ごめんねじゃないわよ、何やってんの!」

飄々とかわそうとするに、は更にまくし立てた。
冷たい風が吹いて2人の髪を揺らす。
昇りかけの月が薄い黄色に浮かんでいる。

「ごめん、本当にごめん。この通り!」
「あのね・・・」

がパンッと顔の下くらいで手を合わせ、上目遣いで見てくる。
意図してかそうでないかは兎も角、のこの表情が苦手だ。

ごめんね、本当にごめんね」
「・・・・・・・
・・・・」
「・・・・何してるんだ?」

2人のものでない低い声に、は後ろを振り向き、は顔を上げた。
ならんだ2つのシルエットのうち、不思議そうな顔をした渋沢が尋ねてくる。

「渋沢。聞いてよ、この子ったら・・・」

すらも呆れるほど細かい部分まで、は詳しく説明を始める。
いきさつがわかりきっているだけに、は渋沢の後ろにいた三上と顔を見合わせた。
渋沢は何も言わず、黙っての説明を聞いている。

ようやく言いたいことをが言い終わると、渋沢は口を開いた。

「わがままと言ったらそうなんだが・・・いいんじゃないか? 手首のことは事実だし、ただのわがままでそこまではあまり出来ないだろう」
「そこなの・・・!? 渋沢は本当にに甘いんだから・・・っ」

悔しそうに呟くに、は慌てて駆け寄る。

「ね、・・・ごめんね?」
「・・・・・・・・」
・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

彼女が黙ったままだから、の表情がだんだん不安げに変わる。
声にも少しずつそれが現れていた。

・・・嫌いになった? 本当にごめん・・・」
「・・・そんなわけないでしょ。なんだから」
「本当?」

ぱっとの表情が明るくなった。
それを見ただけで少しずつ沸いていた怒りが一気に凪いでいく。

「ありがと、大好き、愛してるー!」
「まあ、どっかの誰かと違って信用されなかったんじゃないし・・・」
「はぁ?」

の頭を撫でながら、ちろんと横目で三上を見る。
胡乱げな表情で、彼はそこに立っていた。

「だってそうでしょう? それとも信用されることをしてたとでも? そうでなく思い当たる節が大量にあるんじゃない?」
「うっせーな、だから黙ってんだろ!? だいたいなぁ、」
「怒鳴らなくったって聞こえるわよ」

そのやり取りにはくすりと笑った。
結局、いつもと変わらない。

「そういえば、さっき亮と殆ど同じこと言ってたね」
「げっ、そういうこと言わないでよ!」
「はーい。で、亮、だいたいどうしたの?」

言いかけたことを途中で止めた彼に、はもう一度問いかける。
少し迷った後、彼は笑みを浮かべるとの側へ近付いて頭をピンッと小突いた。
「何すんのよー」とが抗議するが、下から見上げているので全く効果がない。

「おまえは誰にでも好きって言い過ぎなんだよ。ばーか」
「ばか? そこで? 何でよ」
「知るか」
「ひどっ」

言い合う彼女の姿まで幸せそうに見える。
が渋沢の方を見ると、彼もまた2人の様子を微笑ましそうに見ていた。

「・・・ま、いっか」

小さく呟き、後ろからを抱きすくめる。
は驚いたような表情を一瞬だけして、の顔を見上げた。

、大好き」
「私も大好き」

が三上の方を見て嫌味っぽく笑う。
それに三上の表情が変わったのに気付いたが慌てて付け足した。

「でも、亮も大好きだよ?」
「好きって言いすぎっつった後にそれかよ・・・」

三上が呆れた声を出す。
するりとの腕から抜けて、は三上の腕に自分のを絡ませた。

「私は博愛主義者だから。もかっちゃんも大好き。でも亮はまた特別」
「何だよそれ」

ふふ、とが笑う。
街灯に照らされた彼女の顔からは、数時間前までの涙の後はすっかり消えている。

が三上の肩に寄り添った。
上りかけの月と白い街灯が、暗い中で輝いていた。



Back Top
++あとがき++
おしまい。

2006/12/21