「何かって、何するんだよ」 「そのままの意味だろうな」 「わかんねぇって」 「だから興味本位に近づかないでくれと言っただろう」 そう言われたことの意味すらも、未だ掴めていないのに。 Lacrimosa.10 毎年の卒業式の日の夕方から、松葉寮では追い出し会が行なわれる。 主催・企画は中二の担当。準備・片付けは中一、二年の合同作業。 主役はもちろん三年生で、客扱いだ。 三年生がこの日やらなくてはいけないことは少ない。 準備や片付けの邪魔をしないこと。 企画の詮索をしないこと。 だから、当日の直前準備が食堂で始まる前に、三年は自室に引っ込む。 寮へ戻って部屋へ行くまでの間、食堂の側を通ることは避けられないからだ。 「タク、ところでさー」 「なに?」 「追い出し会って変な名前だよね」 上機嫌でお菓子を並べていた藤代が、思い出したように言った。 「なんだ、そんなこと?」 急に言うから、何か少しは重要なことかと思ったのだけれど。 「そんなことじゃないし! だってほら、『追い出し』会なんだよ!? 変じゃん!」 「変じゃないよ。だから誠二、口より手を動かしたら?」 「うーん。でもさー、追い出すとか酷いし!」 「だから誠二は単純って言われるんだよ・・・」 先輩が嫌いだから「追い出し会」というわけではないのだ。 そんなに単純なものじゃない。 この「追い出し会」で不思議なことは、その名前じゃない。 まだこの敷地の中に先輩は留まるのに、来年になればまた同じ場所に居るのに。 別れと感謝を告げるという、この会そのもの。 「終わったー! タク、俺先輩呼んでくるから!」 一通り周りを見渡して、全員の作業が終わっていることを確認する。 「いいよ、呼びに行けば」 言うまでもなく、藤代は走り去っていた。 大声で先輩先輩と連呼する声が聞こえる。 がやがやと人が集まり、三年生全員が集合した。 すぐさま、中一は机の上のコップに飲み物を注いで回る。 全員が揃った所で、藤代が椅子の上に立つと、わざとらしく咳払いをした。 「先輩たちの卒業を祝ってー!」 『かんぱーい!!』 藤代の音頭で、宴は始まる。 次の日の部活に差し支えるからと、深夜まで何かをすることは禁じられている。 卒業式の日とて、例外ではなく。 時計の短針が11を指す前に、食堂はすっかりもとの状態に戻っていた。 つい何十分か前の喧騒が、嘘のような静けさだ。 「先輩」 後輩の声がする。 「先輩は、先輩の事が好きなんですか?」 答えたくもない問いを投げられる。 きっとこの後輩も、の事が好きなのだ。 「だったら、」 ―――どうするよ。 「どうもしません」 自分の分をわきまえていると。 この後輩は聡いのだから。 「・・・何しに来たんだ」 「それは先輩もです。消灯過ぎてます」 「わかってるよ」 なにをしているのだろう。 Back Top Next ++あとがき++ 追い出し会。 追い出すって、先輩なのに酷くない? と思った時期もありました。 あれは、 ・ もう先輩方が居なくても私たちはやっていけます、というメッセージ ・ 寂しいはずの別れはせめて明るく、と茶化すため ということで「追い出す」という名称を用いる(らしい)のですよ。 知恵だね。 2006/06/04 |