授業は終わった。
卒業もしてしまった。
身分上は中学生、扱いは高校生の半端な時。

何も、することがない。





Lacrimosa.11





着替えが詰め込まれたキャリーケースに、大きめのショルダー。それと楽器。
意外と馬鹿に出来ない、吹奏楽部員の移動セット。
はそれらを黙々と準備し終え、最後の確認をしていた。

「いつ出るの?」
「あとちょっとで、かな」
「そう・・・」


中学と高校の間の春休み。
学校生活は丁度一区切りで、帰省には良いタイミング だ。

同時に、一部の部活で行なわれる強化練習・強化合宿。
中等部から高等部の部活に上がるにあたって、部員たちを雰囲気に慣らさせる意味もある。
だから、この時期、寮に残っている生徒は少ない。


「寂しくなるなぁ・・・」
「四月には帰ってくるってば」
「そりゃそうなんだけど」

そうは言われても、やっぱり。
この部屋は一人で過ごすには広すぎる。


「あー、もう可愛いなぁ、は」
「ちょっと、何よー」

頭をわしゃわしゃとかき回され、軽くふくれっつらをしてみた。

「可愛い可愛い。そうやってるところも可愛い」
「まったく・・・人からかってないで。時間平気なの?」
「もう行く」

よいしょ、とカバンを肩から下げる。

「あ、
「なーに?」
「明日の昼くらいから、ケータイ使えない」
「うそ!」

携帯が使えないとなると、いつでも一番頼りにしていた彼女と、一週間も連絡が取れなくなる。
仕方がないといえば仕方がない。
遊びに行くわけではないのだ。

「そっか、そうだよね・・・合宿寮は携帯禁止だもんね・・・」
「そういうこと。メールは夜に頑張って返すけど、電話は無理かな」
「はあい」

素直に返事はしてみるものの、不安で仕方がない。
一人で大丈夫なことなんてなかったから。


「それからもうひとつ」

が指を一本立てる。

「私がいなくてもやらないこと」
「・・・何を?」
「わかってるのに聞かないの!」
「あは」

そこはもう暗黙の了解。
やってはいけないとに念押しされることなど、多くない。
おまけにが曖昧な表現で言うとなったらひとつしかなくて。

「渋沢にも言っておいたから」
「うーん」
「・・・わかった?」
「むー」

何度も何度も確認をする。
少し、申し訳ない気分になる。

「もしダメそうだったら、ちゃんと言いなよ? 連絡もして良いから」
「うん・・・」
「約束だよ?」

最後の言葉には返事が出来なかった。



一人いなくなっただけで、急に部屋が広くなった気がする。
全ての音がなくなった気がする。
こんなに静かだったなんて。

何もすることがないということが、誰もいないということが、こんなにも。


こんなにもつらい。


きっと、守れない。
だから約束できなかったの。



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++あとがき++
やってはいけないこととは何か。
それは、まあ分かる方は分かるかと・・・。
止めてくれる人が居なかったら、どうなるか。

あー、そろそろ痛くなってくるかな。

2006/06/09