わからない。
怖いもの知らずなのか。
ただ馬鹿なだけなのか

わからない。
理由も意味も、全て。

わかろうとも思わないから。





Lacrimosa.18





気候が安定しない。
暑くなり、寒くなり、雨が降り。
この天気に気分を良くする人間なんて、そういないはずだ。
はっきり言ってごめんこうむりたい。


気分不快なら、当然小さなことでイライラするようになる。
堪忍袋の緒は弱く短く、怒りの沸点はかなり低く。

でも、気分だけで済んでいるならまだマシらしい。
この気候で、体調を崩す奴が出始めている。

普段なら自業自得だとか、自分の体も管理できないのかとか、そう思うだろうけど。
そういうことも、あるのかもしれない。


少なくとも、の場合は。



体が丈夫ではないことは見ればわかる。
強くもないということだって、会っていればわかる。

高校では、中学のようにしょっちゅう授業を抜け出すことは出来ない。必然的に、昔と比べて会う回数も時間も激減する。

会っていないから、連絡を取っていないからと決め付けることは出来ないけど、でも。

もしかすると、この前の春休みのように。



春休みの彼女は、かなり酷かった。そう聞いた。
詳しいことは何ら教えてもらえなかったけれど。
本人が教えてほしくないと言ったらしいから、問い詰めることも出来やしない。

でも、とにかく。
一度電話が掛かってきたあの時、渋沢は大丈夫だと言っていた。けれど、その後の様子を見るには大丈夫じゃなかったはずだ。
毎日のように通って心配し続けていたくせに。


「今日はこれで終わりにする」

ぐるぐると色々なことを考えていた時に、練習終了の合図。思考はすっかり中断された。






辺りは薄暗い。
陽はもうすぐ沈みきって、完全に暗くなるのだろう。
すでに寮への帰り道は、街灯がともっている。
並んで歩く道は、すっかり馴染んだいつもの道。


「はい、渋沢・・・・か。・・・?」

会話の途中に突如割り込んだ電子音。
しばらく相槌を打っていたが、やがて表情が変わる。
かなり深刻な話になっているらしい。
渋沢にしては長い時間かけて通話は切れたが、彼はその後も黙って何か考えている様子だった。
足も完全に止まっている。

「渋沢ー」

取り敢えず声を掛けてみるが、反応なし。
少しうつむいて動かない。

――完全に周りが見えてないな。

「おーい、生きてるかー?」

目の前でちろちろと手を振ってみる。
埒が明かないので取り敢えず頭に一発。

「うわっ・・・三上か、何だ?」
「お、生きてた」

殴られたっていうのにも気付いてないような言い方。
きっと気付いていない。
それだけ真剣に考え事をしていた、ということなのだろうけど。

「さっきから一歩も歩いてないぜ」
「あ、ああ・・・」

空返事をして、再び歩を進める。
体は動いても、やはり心ここに在らず、といった状態。

原因はさっきの電話で、その電話を掛けてきたのは
そして、内容はきっとのこと。
それくらいはわかる。
詳しい内容を聞いていない分、こっちだって余計に気になる。

「さっきの電話だろ? は何て言ってたんだ?」
「ああ、ちょっとが体調を崩したらしくてな・・・」
ああ、やっぱり。

「んで?」
「風邪にしてはちょっと・・・でも風邪なんだろうな・・・」

質問の答えにはなっているものの、後半はほとんど独り言に近かった。
隣に人がいると認識出来ているのだろうか。
まあ、渋沢のことだ。そんなに心配する意味もないだろうけれど。

「とにかく、戻って薬を・・・」

歩く速度は段々上がり、松葉寮へ。



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++あとがき++
季節の変わり目。
梅雨。
台風。
風邪に喜ばれる時期。
この時期の風邪は性質悪いからな・・・。