変わってる。
その言葉だけで表現するのは乱暴だけれど。

でもきっと、人は彼女をさしてそう言うのだ。
変わってる、と。





Lacrimosa.22





梅雨明けの日差しは強い。とにかく、ひたすら。
これではせっかく晴れても動けたもんじゃない。

「あっつー・・・」

この学園内には、いくつかの大きな建物と大きな木がある。そしてその中でもいくつかは、角度と大きさのせいでほぼ1日中日陰となっているところがある。当然、夏の間は校舎内に次いで生徒達の憩いの場だ。

校舎のすぐ裏、フェンスのそば。そこは日当たりが悪いが、裏を返せば周りに比べて非常に涼しい場所。

恨めしいほどの青空を見上げて、は腰を下ろした。
手には数枚の書類と、紙パックの紅茶。28度の室内では、湿度が高くてやってられない。
その点、ここは日差しも弱くて風もある。太陽光の届かないコンクリの地面はひんやりと冷たい。

――能率が上がるなら、黙って抜け出しても許容だよね。

だからこうやって仕事を持ちだしているのだ。


「あ、せんぱーいっ!」

よく通る声が響いて、ぱたぱたと駆けてくる足音。
静かな時間も終わり。

「藤代くん・・・に笠井くん・・・暑いのに元気だね」
「だってサッカーいっぱい出来るじゃないすか!」
「あー・・・」

自分とは人種が違うんだろうな。
健康的に日焼けした二人を見てそう思う。

「せっかく外から見えない位置にいたのに。ところで練習は?」
「中等部側からは角度がついて、場所によってはここが見えるんですよ。遠いから殆ど気にしないんですけど。練習は今休憩中です。昼なんで」
「なるほど・・・」

目が良くないから見ようともしなかったけれど、中等部と高等部の敷地は一応同じだ。向こうから見えていても不思議じゃない。

「じゃあ二人とも、私に構ってないでご飯食べるべきじゃない? 時間無くなるよ」
「もう食べたんすよ。先輩こそ昼飯」
「これ」

空になった紅茶の紙パックを見せると、さすがに二人とも表情が変わる。
特に笠井の方は露骨に怪訝そうだ。

「それだけ・・・ですか?」
「運動しないから夏バテでね・・・」

手にしていた紙パックをまた地面に置いて、はひらひら手を振る。

「えー、じゃあ先輩何で長袖着てるんすか」
「んー、それはねぇ」

は下を向いて少し考える素振りを見せる。
そしてふと顔を上げると、少し目を細めてまた笑った。

「誰か来たよ?」
「来ちゃわりぃかよ。・・・ったく、こいつらがたまってるから何かと思えば。ここは中学じゃねぇぞ」
「良いじゃない、同じ学校内なんだし」
「つーか・・・」

助け船を出したを見て、三上もまた表情を変える。

「その格好でよくいられんな」
「あー、やっぱ暑そう?」
「見てる方が暑い」
「そんなー」

確かにちょっと暑いんだけどね、とが呟く。

「日焼けしたくないし」
「でも日焼け止めとかあるじゃないすか!」
「それより先輩十分白いと思いますが・・・」
「引き込もってるから。あとね、あれは効く人と効かない人がいるんだよ」

へらへらと笑いながら彼女は答えた。

「そんな奴が何で外にいるんだよ」
「そう、聞いてよー。先輩が冷房の温度下げさしてくれないの。28度から。やってらんないったら」
「長袖なんか着てるからだろ」
「それ言っちゃ駄目よー」

苦笑しては左手の時計を覗き込む。12時40分。抜けてから12時少し前に抜けてきたから、結構時間が経っている。
コンクリに手をついてゆっくり立ち上がると、軽い目眩。霞む頭を無視してスカートを払う。
多分、気付かれてない。

「みんなは・・・3時まで休みだったね」

もう一度時計を見る。本当に行かなくては、いい加減怒られてしまう。

「じゃあ頑張れー」

挨拶もそこそこに、書類を持って歩きだす。
これ以上いて、彼らに更に何か突っ込まれたら困る。
そう思いながら。



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++あとがき++
隠せ隠せ。
気付け気づけ。動け。

06/09/01