「暑いー。暑い暑いあつい」 「おまえが言うな」 「うわ、三上くん、いつのまに」 「今さっきだよ」 「そっか。暑いのに練習大変だねぇ」 Lacrimosa.23 扇子まで持ち込み、珍しく袖をまくって、はその場所で涼んでいた。 時刻はとうに1時を過ぎている。 ――この場所、遠くは見えても少し近づかれると死角なんだっけ。 おまけに、夏休み中の晴れている日は午後の1時から3時まで、校庭使用禁止だ。熱中症防止の名目で。 時間のことも場所のことも失念していた。 慌てて袖を下ろし、手の甲の半分まで隠す。多分、何も気付かれていない。 「えー、それで何のご用でございましょうか」 「一人淋しくここにいるだろうチャンのお相手をと思いましてね」 「あら、それはお気遣いありがとうございます」 双方、冗談混じりの嫌味の応酬。傍から見たら和やかに見えているかもしれない。 先にその冗談から下りたのは三上の方だった。 「つーかお前見てるとマジあちぃ」 「ひどいなー。気のせい気のせい」 「んなわけあるか」 ほら、でも病は気からって言うし。 ・・・意味が違うのは分かって言っているのだろう。 「心頭滅却すれば火もまた涼し。ってね。で、三上君はせっかくの休憩中に何でこんな淋しい所に来たわけ?」 「あー? 今出てってみろよ。いびりと嫌味が趣味の先輩方にパシられるだけだね」 「へー、三上くんが先輩って言ってる」 「あのなぁ・・・」 表情をほころばせて感心するに、三上はため息をつく。 「ところで」 「はいはい、何でございましょう?」 真面目な顔をしているが、ふざけた口調でが答える。 「チャンはその『三上君』つーの治す気は?」 「うーん、と言いますと」 「名前で呼べってこと」 「そんな恐ろしいこと、とんでもない」 手と首と両方振って、思い切りは否定した。 「自分のファンの多さ知ってる? 彼女でもないのにそんなことしたら、私殺されちゃう」 「じゃー彼女になりゃいいだろ。決定な」 「ああ、なるほど」 ――いや、そこ納得するところじゃないだろう。 内心で突っ込む。何かずれてる。 「でもどーしよっかな。恨まれたくはないし。しかも私彼女にしたら絶対後悔するね」 「そんなに俺と付き合うのが嫌かよ」 「うそ、うそうそー」 またしても否定して、は嬉しそうに笑った。 「光栄だね。ありがとう、亮」 言いだした方が面食らうほどにあっさりと、は承諾した。 Back Top Next ++あとがき++ ・・・短いとか突っ込まない。 展開速すぎるとか突っ込まない。 2006/09/07 |