正直言って、ついていけない。
やっていけない。
どうにも出来ない。

どうして。





Lacrimosa.31





生徒たちが掲示板の前にたまって騒めいていた。

武蔵森の下足室の前の連絡掲示板。そこに突如として貼られた一枚の写真。
写っているのは二人。三上亮と一人の少女。
少女の方はほぼ後ろを向き、特徴は茶色っぽい髪だけで顔はわからない。
口元は隠れていたが、それでも多分何をしているかは簡単に想像がつく。

何も起こらず、ただ平和に時間を過ごしていた生徒たちにとって、その写真は格好の暇つぶしになった。

三上が彼女をとっかえひっかえ連れているのは、すでに武蔵森の生徒達にとっては注目するようなことではない。ただ、今回は学校で彼女と認識されている者が特別だった。

羨望も期待も、嫉妬も落胆も、そんなあらゆる感情でもって見られていた二人だけに、学校に走った衝撃は大きかった。

ざわめきは更なるざわめきを呼び、新しい噂を生む。
話は口から口へと伝わって、容易に本人の耳にも入った。






「・・・え、そんなものがあるの?」

友人達から知らされたその話に、は努めて冷静に返答した。
なるほど。いつか味わったような、隠そうともしない心地悪い視線。好奇と、興味と、色々な悪意の有る無しに関わらず気分が悪い。
それから、嫌でも耳に飛び込む自分の名前。
ひどく耳障りだ。
はそれにすら今まで気付かなかった振りをして問い返した。

「それで?」
「それでって、そんな」
「だって写真に撮られちゃったなら合成だって証明でもしない限り本当のことなんだし、多分証明する必要はないだろうし」

机にだらりともたれたまま、が言った。その返答に、聞いていた周りの方が驚く。

「何言ってるの、仮にも付き合ってるんだよ? 彼氏なんだよ!?」
「まあそうなんだけどね・・・あ、おはよー」

起き上がってが手を振ると、が机に近づいてきた。
遠目にわかるほど、顔をしかめている。

「ちょっと、どういうこと?」
怖いよー。取り敢えず落ち着いて。それで何が?」
「どこのお口がそんなこと言ってられるのかな?」
「うひゃ!い、いは・・・」

が無理矢理な笑い顔を作っての頬をひっぱる。
手加減はあまりされてないようで、が涙目になりそうになると、ようやく手が離れた。

「女の子の顔に・・・しかもかなり痛かった・・・」

が恨みがましくを見上げたが、はその視線をあえて無視する。
頬を擦るに、は問い詰めた。

「三上と付き合ってるのはあんたでしょう!?」
「いや確かにそういうことにはなってるんですけどー、でも写真まで出されたら仕方ないじゃない? 亮だってまだ遊びたいんだよ」
「あんたがそんなんで・・・!」
「いいから、

の言葉を、が遮る。

「いいの。亮がそうしてるんだから、それで」

にはっきりそう告げて、それから席を立ってしまった。
声は少しも震えていなくて、口元だけでも微笑んで。
もう諦め切ってしまっているのだと、そうには見えた。



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++あとがき++
時間飛びすぎてないよね。
写真のお相手はだーれだ。
貼ったのは多分いつまでたっても誰かわかりません。

2006/10/31