仕事は少ない方がいい。本当は。
大量の仕事なんて疲れるだけ。
自分の時間が無くなるだけ。

けれど、こんな時は多い方がいい。
それで誰か評価して。





Lacrimosa.33





「えーと会長様・・・これは?」

机の上に積まれた、色とりどりの画用紙。その横に置かれた段ボール箱2つ。
その量の多さに、は思わず、目の前の人間に尋ねた。

さん、やっと来た・・・。こっちの書記部活行くって言うんだもんなぁ。それやっといて」
「・・・ですから、これは何ですか」

ピントずれした返事に疲れを覚え、もう1度聞き返しながらは1番上に置いてある黒い画用紙に手を伸ばす。

引っ繰り返して見れば、黒地に明るいオレンジや黄色の装飾。弾むような楽器の絵。白く抜かれた「第37回定期演奏会」の文字。
もう1度裏返すと隅の方に鉛筆で「吹奏楽部」と走り書きがしてある。


「ポスター・・・? 何でこれが」
「文実が今ギリギリらしくてね、急遽手伝うことになったんだ。そのポスターはサイズと部活で揃えて、チェックして生徒指導の判子押す」
「はあ・・・。何でそんな仕事引き受けたんですか? って言うか会長様、仕事だけ押しつけて帰らないで下さい!」

説明のあと、自分の仕事は終わったとばかりに部屋を出ようとする彼をみとがめる。

「あ、いや、僕はストレスで胃に穴が開いてしまって、それで病院に行くんだよ・・・」
「病院に行くなとは言いません、むしろ病気ならちゃんと行ってもらわないと。でも、今日の予定終わらなくなりますよ?」
「そ、それは・・・」

が言うのを見て、彼は冷や汗をかきながら、痛む胃を押さえた。怒るのでもなく微笑むのでもなく無表情に言うのが、かえって恐い。
それから、辺りを見回す。しかし、生徒会室には自分自身としか見当たらず、廊下に視線を向けても希望人物は来そうにない。

「帰りがけに中学生でも呼んでくるよ。あと東京合同生徒会のレジュメ作っておいて。じゃあ」
「レジュメは明後日の消印までじゃ・・・え、ちょっと待って下さいっ・・・」

捕まるものかと、急ぎ足で廊下を曲がる先輩。
はため息をついた。

「もう・・・しかも何で中学生を・・・」
「高校生で借り出せる人が生徒会にいないから」

生徒会室を見回したの背後から、声がした。
すごい勢いで階段降りてたよ、と彼女は言って、散らかった生徒会室をさっさと入っていく。

「文化祭前だからね、高2はそろそろみんなストレスや疲れで体壊す時期なの。あの会長さんも。あっちの会計も頭痛で休むって聞いたし。というわけで、今日は3人ね」
「え・・・」

椅子を引いて、彼女は自分の席に座った。その彼女も、心なしかその顔色が悪い。

「先輩も平気ですか? 少し顔色悪いですけど」
「ちょっとね。さんこそ平気・・・そうだけど。副会長って言ったら1番最初に疲れが来て倒れる役職なのに。しかもさん高1だし」
「そうなんですか?」
「でもさんがストレスって似合わないね。元気ならいいよ、羨ましい。私胃にきちゃって大変」

先輩が笑ったのに合わせても笑う。
何が面白いのか、全然わからない。彼女の言うことは、嫌味にしか聞こえないことが多い。
もちろん、そんなことは絶対に言ったりしないけれど。

「そうですね、ストレスで体壊したことは無いです。でも仕事がいっぱい来るから、素直に喜べないですけど」
「あー、言えてる。ところでもう1人は?」
「部活の方へ出るそうです。会長様が言うには」

先輩が困った、という表情を浮かべる。
それからの前で手を合わせると微笑んだ。

「ごめん、私も4時過ぎに抜けなきゃ! 病院、すでに予約入っちゃってるの」
「そうですか・・・大変ですね」

できるだけ心配そうに、言ってみる。
『入っちゃってる』なんて、どうして言えるんだろう。自分で入れたくせに、他人のせいみたいな言い方して。


「ホント、ごめんねー」
「いえ、仕方ないですけど・・・取り敢えずやりません? 10分ちょっとしかないですよ」
「そうだね、じゃあ、こっちの山取って。私は確認だけするから、判子はさんね」

1番左にあった山を、は押しやった。
それから、机の引き出しの1つを漁る。
生徒指導の判子は会長と副会長、教師しか扱えない。
作業の場を作って、付属のプリントを見てチェック箇所を憶える。それから、インク台のインクを確認してメモ帳も取り出した。
急がないと、終わらない。



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++あとがき++
ま、ていの良い仕事の押し付け役とか。
でも文化系クラブとかではないから、先輩には逆らえないとか。
病弱なのは振りだけだから、高校入って単位が必要になってちょっと真面目になったとか。

2006/11/15