人からどう見られてるだとか
人からどう見られたいだとか
気にしない人なんているの?

私は気になって仕方ないよ





Lacrimosa.34





聞きたくない話を聞かされ、聞かれたくないことを聞かれ続け。
そんなに口を動かす暇があったら、黙って手を動かせば良いのに。
これでは、チェックするだけの先輩より、明らかに私の方が速いじゃない。

「・・・でさぁ、・・・さん聞いてる? 大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫ですけど」
「そーお? でもやっぱあの写真ショックだったんだねー。さん何考えてるかわからないとこあるから、あれも全然気にしてないのかと思ったけど。大変だけど三上君相手じゃ仕方ないね」
「そうかもしれませんね」

――ほら、また手が止まってる。

本当に猫の手くらいにしか役に立たない。
それでも1人より速いことは速いから、あまり文句も言いたくない。



コンコン
2回のノックの音、「失礼します」の声に、ドアの方を向く。

「何か手伝うことありますか?」
「あ、来た来た。じゃあさん、私帰るから」
「お疲れさまでした」
「お疲れ。あと頑張ってねー」

自分の荷物をまとめるのはやたら速く、先輩はに手を振ってドアを出た。

やっぱりあれは嫌味だろうか。
ああ、頭が痛い。



「えーと・・・先輩? あたしたち何すれば・・・」
「あ、ごめん。2人が会長様に呼ばれて来たの?」
「はい、中等部の生徒会室の連絡黒板に伝言が」

しっかりと答える少女の声を聞きながら、はこっそり2人を観察する。
男女1人ずつ、確か両方3年生。
1人は笠井竹巳、亮の後輩。
もう1人は・・・生徒会長だったはず。悲しいかな、名前は憶えていない。きっとどうにかなるけれど。

「じゃあ・・・せっかく来てくれたんだし、お願いしようかな」

は机の奥に積まれていたファイルの中から、B4サイズのプリントを4枚取り出した。それを笠井に手渡す。

「3枚目までは両面でコピー、800部。順番間違えないようにしてね。4枚目はプログラムの訂正だから・・・4000くらい必要かな。紙はそこ。あとはどれくらい残ってる?」

ロッカーを指し示してから、は机に向かって作業をやり直す。
生徒会長の少女が近づいてロッカーを開けた。狭い中に、紙だけが積まれている。

「B4は500の束が3つと・・・開いてるのが1つです。こっちは3分の2くらい残ってます」
「じゃあまず紙買わないとね・・・お金持ってる?」

2人は顔を見合わせて、それぞれ財布を取出し、中身をあらためた。

「1000円くらいしか・・・」
「あたしも同じくらいです」
「そう。それだと足りないだろうね」

は手を休めて、ポケットから鍵を取り出した。勝手に自分専用にしているロッカーに、これまた勝手に取り付けた南京錠の鍵だ。
まっすぐロッカーに向かって鍵を差し込むと、カチリと特有の音をさせて錠が外れる。
中に入っていた様々なファイル、プリント、傍から見たら何だかわからない雑多なものを除けて、奥の方からは封筒を取り出した。
ごく普通の白い縦長の封筒だが、透けないようにと内側では藍色の薄紙が覆っている。

が封筒を開けて取り出したのは、5000円札が1枚。
驚く2人を尻目に、は当たり前のようにそれを笠井に差し出した。

「これは・・・?」
「こういうことがあるから、常備してあるの。私のだから紙以外に使わないでね。領収書はちゃんともらってくること」

じゃあよろしくね、とは微笑む。
しかし、渡された5000円札をしまって2人が出ようとしたところを、彼女はまた呼び止めた。

「ごめん、そこの持っていって。2人でも手じゃ持ちきれないと思うから」

が言いながら目をやった方には、黒い小さめのキャリーケースが、部屋の隅でひっそりと置かれていた。

「あ、はい、ありがとうございます」
「それから多分置いてないけど、箱売りしてるかどうか聞いてみてくれる?」
「はい」

経費削減は、どこでも重要課題。
部活ならともかく、委員会も生徒会も徹底している。

再三の注意と指定を出した後、は変わらない笑顔で言った。

「ごめんね、長くなって。・・・いってらっしゃい」
「行ってきます」

つい口から出た2人分の返事が、生徒会室から聞こえた。



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++あとがき++
だって生徒会の後輩は笠井じゃないか。
部活さえも捨てて生徒会。普通は学校で優先順位がそうだろうけど、武蔵森はどうでしょう。
サッカー強いんでしょ。そのレギュラーでしょ。部活出させたいとか思うんだろうな。

2006/11/21