そんなこと勝手に決めないで。
周りまで巻き込まないで。

いったい何を知ってるというの?





Lacrimosa.37





終わることが終わってしまえば、後夜祭も待たずに、はまた体を壊した。
それで結局自分は体がそんなに強くないのか、文化祭の代休はこれで1日終わりだ、とか考える。
誰もいない寮に1人戻って。
そんな下らないこと、意味もなく。

そうでなければ、もっと考えたくないことを思い出してしまう自分がいる。
どうにもしないと自分で決めたのに、諦めが悪いまま、とりとめもなく。


写真の女の子は誰だったんだろう。
痛む頭で考え始めたことが、また亮に関することだと、それに付いて考えることは止めたのだと気付かない。
考えるほど自分の首を絞めて、そこまで行かないとわからない。


ようやく自分の考えていることに気付いたは、大きく溜め息をついて頭を振った。

がいれば気も紛れるのに。
安心して寝ていられるのに。
文化祭が終わったのだから、今日の彼女の帰りは遅い。

1人は嫌いだ。
けれども、大勢の中で痛みと微熱でぼうっとする頭を抱え、いつもどおりに猫を被っていられる自信はない。


机の上からかたい音が大きく響き、暗い室内が薄ぼんやりと明るくなる。
今まで聞こえてた音が殆どなかっただけに、不意に鳴ったその音に心臓が止まりそうになる。
メールなら放っておけばすぐ止まる。実際それは止まって、はもう1度横になった。
メールを打つのも面倒臭い。

けれどもそれから5分ほどすると、また携帯電話は震えだした。
しばらく続いている様子を見ると、今度着いたのはメールではなく電話らしかった。

「はいもしもし」
「・・・ど・・・・るの?」
「はいー?」

電話の奥からは喧騒ばかり聞こえてきて、肝心の声が殆ど聞こえない。

ー?」
「今、はどこにいるのっ!?」

それこそ耳を塞いでも聞こえるような大声で、2度目の声がした。
あわてては携帯を遠ざける。

、聞こえてる?」
「あ、うん・・・。もう少し小さい声でも聞こえるよ」
「そう。ところで今どこ?」
「寮」

答えた瞬間、の露骨に疑問を含ませた返事がきた。

「何で戻ってんのよ・・・。文化祭はまだ終わってないわよ」
「ごめん、ちょっと疲れちゃって・・・」
「また? じゃあ仕方ないけど、その体質は治さないと損ね」

うん、とが小さく返事をする。

、今平気なの?」
「今のところは。あ、そうね。今1人なんでしょ?」

はやたらと勘がいい。
全部を言わなくても全て察せる。
とても小さな一言でも。

けれど、その能力はあまりにも高すぎる。

「じゃあ三上行かせる」
「・・・へ?」
「今近くにいるけど。大丈夫、文化祭の主役じゃない分だけ暇だったはずだから」

思いもかけない提案に、言葉とならない声がの口から出た。
だからは勘が良すぎて、こうやってたまに怖い。

「窓の鍵外しておきなさい」
「え、でも」
「わかったね?」

一方的に電話が切れる。
が言いだしたなら、彼は本当に来るだろう。




「・・・そういうわけだから。三上行ってきなさい」
「は? 勝手に決めんなよ」
「何、彼女放置する気? この前朝からあんなに世間を騒がせておいて?」

がキッと三上をにらむ。
夕闇のその顔が結構怖くて、三上は顔を引きつらせる。
大体、彼女に正面から何か言い返せたことがない。
が絡めば、余計に。

「あんた暇でしょ? 仮にもの彼氏でしょ? この前のことを少しでも悪いと思ってるなら、行って謝るくらいしてきたら? もしもう彼女がどうでもいいなら、さっさと嫌いだから別れたいと言う。は反対しないと思うわよ」

そう言いながらも、は確信する。
三上はと別れるとは言わない。少なくとも今は。

「・・・手首切らせたくないんだったら、さっさと行きなさいよ」
「・・・っ。わかったよ。行けばいいんだろ」

後ろ姿を見送りながら、思う。

そうやってまだ好きなら、あんなことしなければ良いのに。



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++あとがき++
あてつけ・・・?
友人は強いです。

2006/12/02