どこまで期待すれば。
いつまで期待すれば。

どうやったら報われるの?





Lacrimosa.38





はたまに気味が悪い。
何故か見透かされている気がするから。
何故かすぐに感付かれてしまうから。

の友人は不気味だ。



遠く喧騒を離れる。
人はすっかり出払っていて、人影はない。
女子寮に入り込もうとも咎める人はいなく、防犯意識の低さに呆れを覚えるほどだ。
その方が今の自分にとっては都合がいいなんて、言うまでもないことだけれど

端から3つめ。
決して見つかりにくい場所ではないけれど、外から入るには1階という地理が味方する。
電気はついていないものの、その部屋だけカーテンが締め切られているから、の部屋を見つけるのはたやすかった。

近づいて見てみれば、鍵は開いている。しかし、カーテンまで締め切りの部屋に窓から入るのは、さすがにためらわれた。
かといって窓を叩くのも声をかけるのも躊躇する。

「誰・・・? なんだ、亮」

悩んでいるうちにが内側から窓を開けて、それは徒労に終わった。
カーテン越しに人影が見えたから開けたのだと言う。

「本当に来てくれたの? 取り敢えず誰か来る前に入る?」

部屋着らしい格好のが尋ねる。
三上はそれに頷いて、窓に手を掛けた。



部屋の蛍光灯は消えていたが、ベッドの側の電気スタンドが明かりを放っていた。そのため、部屋の中は真っ暗というわけではなく、薄暗い程度にぼんやりとしている。
外から見たときは確かに真っ暗で、三上が入ると同時にがつけたのだ。

「何してたんだ?」
「寝てた。疲れたし、頭痛くて」

当たり前のように言って、がドアへ近づく。

「上の電気も付ける?」
「どっちでも」
「そっか」

三上のそっけない返事に対して、も短く返す。そして部屋自体の明かりをつけないまま、ベッドへ戻ってそこに座った
その何でもない動作を見ながら、三上は仄暗い部屋を見回す。

「・・・リスカはしてねーよな」
「なーに、してると思った? それともしてた方が良かった?」
「な、馬鹿、・・・っ!」

三上がの言ったことを思い出して思わず小さく呟くと、はそれを聞き付けて反応を返した。
それだけでも三上は驚いたのだが、は更にポケットから剃刀を取り出す。
しかし彼女は三上が声を荒げるとすぐにそれをまた戻した。

「嘘。じょーだん。ごめん」
「・・・冗談に見えねーよ」
「やだな、私そんなに世間知らずじゃないよ。それに痛いところは1ヶ所で十分」

が笑いながら手を左右に振る。それを見ていると確かに冗談にしか見えない。

「ところで後夜祭は? 別にの言うこと聞かなくても良いんだよ?」
「戻ったら俺に殺されるぜ」
「うん、それは言っとくから。は妙に気を遣いすぎなんだよ、私に対して」
「・・・それ、自分で言うか?」

呆れた風の三上に対して、は首を傾げてみせた。

「どうかな。でも本当に行かなくていいの?」
「いい」
「部活で集まったりとかは?」
「サッカーは文化祭とは関係ねーよ」

文化祭という文化部と受験生の為のような行事は、いくら学校の1つの目玉とはいえサッカー部にやれることは限られている。
ならばそこで部に義理立てすることもない。

「クラスとかも?」
「そんなんねーよ」
「・・・女の子も?」

まさか、今聞かれるとは思わなくて、三上は返事に詰まる。

「・・・それもねーよ」
「・・・そっか」

無理矢理納得したような返事。
それに何か言われる前に、明るい声を出した。

「じゃあ、今は私が亮独り占め? やった」
「能天気な奴」
「亮までそう言うんだから」

ズキンと頭に鈍痛が差して、反射的には左手をそこにやる。それから右手で置いてある枕を引き寄せ、それを抱え込んだ。
枕でも、ぬいぐるみでも、クッションでも、そう言うものをはすぐに抱える。

「私そんなにそう見える?」
「見えるっつーか」
「色んな人に言われるの。今日も先輩にそれで嫌味言われたし」

そうして、それを理由に仕事は後輩である彼女にまわる。
やっかみ半分、押しつけ半分で。

「私別にストレス無いわけじゃないと思うんだけどな」

が心外そうに呟く。
確かに彼女は胃を壊したりしていない。拒食などもない。
けれども、現に今彼女は疲れで体を壊して。手首を切る癖は治っていなくて。

――リストカットしてたからか。

何故彼女が耐えていられるのかが不思議だった。
どう考えても疲れないはずのない仕事量。
噂に聞くクラスでの妬み。
常に演じる優等生の彼女。

――あの癖は本当にただ止めさせていいのか。



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++あとがき++
彼女は相当な猫っかぶりです。
絶えず作り物のキャラで行きます。他の人より顕著に。

2006/12/05