私はどこに。 私はどこに。 あなたが好きな私はどこに。 Lacrimosa.41 「では、試験を終了してください」 チャイムと同時に告げられる無情の声。 大多数の生徒と同様、もその声でシャーペンを置いて息を吐いた。 4日間のテストの最終日、最終教科であるだけに、教室の空気は始まる前と比べものにならないほど喜びに満ちている。 出来栄えはどうであれ、おわったその瞬間だけは解放感に浸れるのだ。 「、どうだった?」 「さあ、どうでしょーう?」 「ああ、あんたに聞いた私が馬鹿だったわ」 どうせ全教科3位以内で総合1位なんでしょ、とつぶやくに曖昧な笑顔で返す。 は持ち帰った教科書をロッカーの中に放り込み、肩の荷が降りたと清々しい顔をした。 文字通り軽くなった鞄を持って、2人は教室を後にする。 廊下は暖房の効果が薄くて、教室と比べるとかなり寒い。外はきっともっと寒いのだろう。 「答案返却っていつだっけ」 「明後日じゃない?」 「先生もご苦労なことね」 が皮肉っぽく笑う。 テストなんか返ってこなくても良いと言わんばかりの笑みだ。 廊下を曲がると、教室の暖気が届かないせいか温度が一段と下がる。 はその寒さに首を竦めた。 手をセーターの袖に隠してもあまり体感温度は変わらない。 「あ、私部室行くわ」 「ああ、部活?」 「そ。でも午後からだから取り敢えず自主練」 「えらーい。それにしてもの部活って大変だよね」 感心したようには言った。 それにが「こういうものなの」と返す。 運動部でもないのに、とは思ってしまうのだが、そう言えば怒られるのは目に見えている。 は部活に関しては真剣だから。 そうでもないと、入学してからずっと吹奏楽なんてきつくてやっていけないだろう。 部室は暗くて狭かった。 コンクリートむき出しの壁は冷たくて、電気を付けても陰気さが抜けない。 本棚に並んでいるのは多種多様な教本と楽譜類。一部はCDとMD、古いカセットテープ。 床にはやたら目につく大型楽器。奥から大きい順に、チューバやホルン、トロンボーン。どれも非常に行儀良く並んでいる。 壁にそって取り付けられた大きな棚には比較的小さい方の楽器が所狭しと置かれていた。 はその中の1つを取り出した。 入部とほぼ同時に割り当てられた、黒いケースのトランペット。 「ね、聴いてていい?」 が尋ねた。 「良いけど・・・つまんないわよ、曲じゃないから」 「いーのいいの、スケールだって真面目に聴いてれば面白いよ。つまんなくなったら帰るから」 「あんたってそういう奴だったわね」 がいつも通りの返答をした。 よくあることだが、はこういう返事をしてもつまらないからと聴くのを止めたことはない。いつも最後まで聴けない理由は、部員が入ってきた時点で彼女が遠慮して部室を出てしまうからだった。 「、生徒会は?」 「今はあんまりないよ。だから部屋戻ったら寝よー。今日も明日もお休み!」 「ふーん。いいね」 「でしょ?」 マウスピースを取り付けるに、は笑顔で答える。 それがやっぱりいつも通りだったから、その時は何の違和感も感じなかった。 Back Top Next ++あとがき++ スケールってね、こう・・・凄いんです。 上手く説明できないのがもどかしい。音階のことなんだけれど。 「あなたが好きな私」ってあなた→私なのか、私→あなたなのか2種類あるって事に今更気付いた。 2006/12/11 |