行ってみようか?
空高い、ここでない場所。
言ってみようか?
子供みたいな、無垢な我儘。





Lacrimosa.44





電話はいつまで経っても、繋がることがなかった。そのことにも三上も、それぞれが若干の焦りを覚えはじめる。
外で聞いた呼び出しの放送は、あの後15分程してからもう1度かかった。応じていない、ということだろう。

の行く場所に関する心当たりは、そう多くなかった。そして、突拍子のないところに行くような子でもないと――少なくともは、そう思っていた。
もう1度教室に戻る。部室、生徒会室、それから屋上。けれどもどこにも、彼女の姿は見つからない。
寮に戻ってるかもしれない、という気はしなかった。
さっきが思ったとおりのことを本当にが考えているなら、まだ学校には残っている。
呼び出しに応じないのは、最初から明確な意志をもって白紙答案としたからだ。

「・・・と言っても、心配させすぎなのよ」

ぶつぶつ言いながら、屋上へ繋がっている階段から降りていく。
このままでは部活に遅刻してしまうような気がする。しかし、の姿が見えない以上放っておいたままにすることができない。

「・・・ったく。の馬鹿。あんた頭は良くても本当に馬鹿よ。人の気も知らないで」

歩き回ったせいか、体の中が熱くて、マフラーを巻いた首筋にほんのりと汗がにじむ。
顔もほてっているのが自分でわかるが、風にあたっていたせいか表面は冷たい。


階段を降り切ったところでは立ち止まった。
廊下の時計は1時15分を指している。
部活は、もう始まっている時間だ。

の携帯電話をもった手に力が入った。
メールの送信履歴は同じアドレスに2回。電話の発信履歴は同じ番号に5回。
その2つは、同じ人物が持っているもの。

「もう、今度こそ出てよ・・・出ないと後で・・・」

半ば投げ遣りな状態で、は見慣れた番号を呼び出す。
声が小さいだけで口調は変わらず、祈りというよりは呪いになりそうな物騒な物言いだ。
鳴り続けるコール音。まだかまだかと鳴らし続ける。
やたら長々と音は続き、根比べとも言えるような時間が過ぎ、ようやく電話は繋がった。
心のどこかで諦めていただけに、思わず手に持っていた携帯電話を落としそうになる。

「・・・もしもし・・・? ねぇ、だよね? ?」

耳から離れた所で、微かに声がしている。
慌てては携帯電話を耳の傍へと持っていった。
の不安そうな声がはっきりと耳に届く。

・・・?」
「馬鹿!」
「え・・・」

戸惑ったようなの声が聞こえて、そのまま彼女は口をつぐむ。
は黙ったままの彼女を責めるようにまくしたてた。

「何考えてるの、そうやって周り振り回して」
「・・・ごめん」
「テストも白紙答案で、電話はかけてもかけても出なくて」
「・・・ごめん」

の謝る声が遠くに聞こえる。

「心配したの、わかってる!?」
「うん、うん・・・ごめん」

何度も何度もは同じように繰り返し、も声がようやく落ち着いた。

「・・・テスト白紙って本当?」
「うん」
「何で?」

がしばし黙って、ぽつりと話す。

の思ってる通り」
「そう・・・」

の思っている通りのこと。
それなら、彼女の思惑はある程度成功しただろうか。

風が吹いて、その冷たさにはハッとする。さっき動き回って熱ささえ感じていたはずなのに、今はかなり寒い。

「もう協力しないわよ」
「してくれたの?」
「さあ」

してくれたんだね、とが明るめの声で言った。
しばらく沈黙が降りた後、不意にが「あ・・・」と小さく声を漏らす。
どうしたのかと呼び掛けても返事はなく、少しの時間を置いての声が戻ってきた。

、ありがとう」

そのまま電話は一方的に切れる。唐突すぎて多少面食らったが、納得しては携帯電話をポケットに突っ込んだ。
声が少し震えていた気がするけれど、保障もなく大丈夫だと思う。

「来たのかな・・・でも、本当にどこにいるのよ。私ちゃんと探したわよ?」

楽器を片手に、は足を早める。
次に考えなくてはいけないのは、どうやってパーリーに言い訳するかだ。




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++あとがき++
何でわかるのかなぁ、お友達。
つーか随分振り回してるね、周り。
出来るのは何だかんだ言って幸せなことなんだろうね。

2006/12/17