卒業式なんて名前ばかり。

来年も同じ人々が顔を合わせる。
春休みだって毎日のように部活がある。
移る場所は、同じ敷地の隣の校舎、隣の寮。
それでも、その日は少しだけ特別だった。





Lacrimosa.8





「よーしおまえら、喜べ! 全員無事に卒業だぞ!」

クラス全員分の卒業証書を手に、担任が入ってくる。
まさか卒業式が終わった後なのに、卒業できてない奴がいるわけない。
・・・・全員卒業が喜ばしいのは事実だけど。


卒業証書が、1人ずつ、担任の手で渡される。
いつもは馬鹿騒ぎばかりしている奴でも、今だけはやけに真面目。
神妙な面持ちで、証書を受け取る。

前で何か一言ずつ言われているらしい。
嫌になるほど聞いているはずの担任の声さえ、違うもののようだ。


「来年から何が変わるというわけでもないが、おまえらも高校生だ。たかが1年だが、高校と中学の差は大きい。各自で自覚を持って行動するように! 部活も良いが勉強もしろよー。たまに会ったら声かけてくれ。以上!」


教室が歓声に包まれ、どこからともなく拍手まで湧いた。
生徒同士は何も変わらないが、中学を教える教師とはもう会うことも少なくなるだろう。


「よし、では最後に成績表を返す!」

急に教室が静まり返った。

「聞こえてなかったのか? 出席番号順だぞー。さっさと取りに来ない奴はばらまくからな!」


そして、再びうるさくなる。
ブーイングの嵐だ。

「うるさい。点数公開されたくなかったら早く来い。相場ー、飯野ー、石橋ー」

次々と名前が呼ばれ、成績表とテストの答案用紙が舞う。
返すというより、配るというより・・・・



――散布だ。



点数大公開も何もない。
最後の最後にこれかよ。








「ま、こんなもんだろ」
「三上も前とあまり変わらないな」

テスト結果が、数学は良くて古典が悪いのはいつも通り。
体育が良くて美術が悪いのもいつも通り。
出席率の悪さで、成績がそれより下がっているのもいつも通り。さすがに赤点はない。
当然だ。赤点なんかとったら、部活に影響する。
最悪、活動禁止だ。

全体で見れば中の上か。そんなもんだろう。


一通り見渡してさっさと鞄にしまう。
悪くない成績とはいえ、あまり長時間見ていたいものではない。


――さて、と。

今日の学校での予定は卒業式のみだ。部活もない。
そういえば早く帰ってくるよう、藤代がわめいていた気もする。
気もするのだが、それにしても今の時間では早すぎるだろう。
高校側で父兄がたくさん集まっているため、全校庭も使用禁止。何もすることがない。

、は」
「何だ?」

ふいに口から出たという名前。
最近彼女と会っていない。

はやっぱりオール5なんだろうな」
「いや、いつも通りなら3と4が一つずつくらい在るはず・・・」

優等生にありがちなパターンで、も体育やら美術やらは得意ではないのだそうだ。

「とりあえず寮に戻ろう」

渋沢の一言で席を立つ。


は、今も屋上だろうか。



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++あとがき++
何でヒロイン出てこないのー。

成績表って怖いよ。
受け取るたびにびくびくしてるよ。
良ければ素直に受け取れるのに。

人と成績表の見せあいしたり点数公開したりっていうのは、不思議な行為ですよね。
やらなければ恥をかかないのに。
でも気になってしまうという・・・

2006/05/25