なんで今更。 どうしてこんな時に。 答えてくれるものなど有りはせず。 もし、もっと早く見つけられていたなら。 彼女に気付かせずにすんだなら。 引き止めていられたなら。 でも、そんな『if』は、もう無意味・・・。 暁 の 方 少女の足はそれほど速くなくて、彼女がそこに着く前に追い付いた。 追い付かれた彼女の手首をつかんでも、なおも前に進もうとする。 目はしっかりとそちらを向けて。 さっきよりも近くで見えたのは、怒鳴り散らす金髪の男と、殴られる青年。 「離して、兄さまがっ・・・!」 「、落ち着け」 彼が生きているはずはない。生きていられるような事故ではなかったから。 そう思っているけれど、目の前で怒鳴られている彼は、確かに彼女の兄に見える。 「いやっ、だって」 「俺が行ってくるから」 つい、口を出てしまった。 あとには引けない。 「俺が、あの人助けて確認してくるから」 「・・・本当?」 「うん。だからはここから動かないで」 ここでのいざこざの大半は、文化の違いと言葉の壁で起こる。 みたところ今回もそのようだし、ならば大丈夫だろう。 それでもを近付けるのはあまりに危険で、一人で向かう。 彼に会わせてはいけないような気がした、というのもあるけれど。 彼女が頷いたのを見て、喧嘩の方へ急いだ。 聞こえてくるのは、英語での騒ぎ。内容はなんてことはない。 ぶつかったの当たっただけだの。 ただ、相手が酔っていたのが悪かったらしく、ぶつかった方の青年は殴られて、今に到るようだ。 こういう時の扱いには慣れている。 下手に自分の正当性を訴えるから騒ぎになるのだ。最初から謝って逃げてしまえば良い。 外国人相手では謝ったら負けなのだが、酔っ払いに対しては有効だ。 「Excuse me!」 近づいて、聞こえるように叫ぶ。 「Who?」 「I'm sorry. It seems to my friend has troubled you」 男の問いにはまったく答えず、強引にその青年を連れ出した。 いつまでも残っていては、また面倒になる。 少し歩いて後ろの様子をうかがうと、もう男は店に入ったようだ。 竹巳は、ようやく助けた青年を見上げた。 ――の兄、ではない。 あの外国人といる時は気付かなかったのだが、異様に背が高い。それに、こちらでは見られない、髪と目の色。 色素が薄いのだ。 およそ日本人には見えない容姿だが、何故か東洋人のような雰囲気もある。 「Thank you」 「Not at all」 「May I have your name?」 ・・・来ると思った。 まったく、どうして異国の人は人と近づきたがるのだろう。 「Takumi Kasai」 「Takumi. ...Who is this girl?」 「え? ・・・!?」 指摘されて初めて後ろに彼女がいたことに気付き、唇を噛んだ。 彼女の方は茫然と目の前の青年を見上げている。 「兄さま、じゃ、ない・・・?」 「」 「・・・違うのね」 半ば諦めたような、寂しそうな表情で。 泣き笑いのように彼女は微笑んだ。 「Your sister?」 「No」 青年の方は状況がつかめないようで、話が噛み合わない。 日本語は全くわからないのだろうか。 「Do you speak Japanese?」 「No I don't」 やはりそういうことなのだろう。 もう、これ以上はごめんだ。 「...Sorry. As we have to return, we...」 「Oh. May I ask the one more last?」 「...Sure」 「Do you know where 's house is?」 「・・・?」 何故その名前が。 驚きを隠しつつ、慎重に問う。 「Is it the house in Count?」 「Yes. You know, don't you?」 なんで。 なんでこんなことになるんだろう。 Back Top Next 2006/06/01 |