それ以外の道なんてないと
一体誰が決めたのか





の 方





「マジで!? いーなータク、東京の学校行くのかよ! 俺も行こっかなー」
「・・・誠二は楽しそうだね」
「だってそうじゃん!? 汽車とか俺乗るとワクワクするんだよね!」

結局昨日はとの破談の話が気になって、竹巳は夜あまり眠れなかった。
そうやって疲れきって机に体を預けていると、それを全く気にしない誠二がいつもと変わらず話しかけてくる。
そして、少し話を漏らせばこの通り。
竹巳の不安やら心配やら、まるで意に介さないのだ。


「よし、やっぱ俺も東京行こう!」
「・・・よくそんな簡単に決められるね。勉強しに行くんだよ?」
「うーん、まあそれは適当に。それにどうせいつか行かなきゃ行けなさそうな感じだったしさ、丁度いいじゃん?」

誠二が笑って言った。
その何処までも楽観的な考え方が、今の竹巳にはまるで不似合いで、けれど羨ましくも感じてしまう。

「竹巳は行きたくないの?」

調子を合わせてこない竹巳の顔を、誠二が覗き込む。
それに竹巳はいまいち調子が上がらないままぶっきらぼうに答えた。

「別に」
「ふーん」

竹巳は勉強が嫌いではなかったし、見る人が見ればわかるほどに努力もしていた。
だからせっかく更に勉強が出来る機会をふいにするような人間ではない。

その違和感を感じて、ああ、と誠二は気付く。


「そっか。ちゃん東京にいないから。いーじゃん遊べば」
「何言ってるわけ?」
「あ、やっぱダメ?」

竹巳が冷たく返すので、誠二がやっぱりという顔をして舌を出す。
花町に行ったことが無いわけではないけれど、竹巳は誠二と違ってそういう賑やかな場所が好きではない。
いくら伯爵の笠井家でも、息子の芸者遊びに使うほどの金銭的余裕はなかったし、芸者という人物自体も竹巳はそれほど好きではなかった。

「楽しいのに、深川とか吉原とか」
「行かないよ、誠二はそんなに通ってるの?」
「だって俺人気者だからさー」

ほらね、と誠二が笑う。
溜息をついて、竹巳は視線を逸らした。

鹿鳴館では、あんなに非難してたくせに。
それは彼女たちではなく、男たちの方だったのか。


「でも東京と横浜、そんな遠くないし。週末帰ってくれば? あ、それじゃあ結納は? 卒業してから?」

率直な疑問を、誠二がぶつけてくる。
何故かこういう答えにくいものばかり聞かれるのは、気のせいだと思いたい。

「取り消し」
「・・・マジ?」
「本当だけど?」

こんなところで嘘ついてもしょうがないでしょ、と竹巳が言うと、それもそうだよね、と誠二も納得したように引き下がった。

「何で?」
「佳明さんがいないから」
「あー、ちゃんのお兄さん? それって随分前の話じゃん」
「そういうこともあるんだよ」

誠二の方を向かないまま、竹巳は答えた。
それに誠二は構わず喋り続ける。

「じゃあさ、竹巳どうすんの?」
「どうするって・・・取り敢えず学校だろ」
ちゃんは? 俺立候補しよっかなー」
「あー、無駄だよ。三上先輩が相手だから」

「うげっ、三上先輩!?」

予想していなかった竹巳の返事に、誠二が露骨に驚いて席を立つ。
それから竹巳のほうに身を乗り出して、問い詰めた。
教室での視線が少し痛い。


「やっば何それ。つーか三上先輩それが目的で帰ってきてたのか!」
「いや目的って・・・一応商売のはずだけど」
「ちくしょー三上先輩に先越されるなんて」
「・・・誠二聞いてんの?」

呆れそのままの声で聞いてみるが、誠二の視線は別の方向を向いたまま、変わらずその悔しさを呟いている。
それを相手にするのを竹巳は諦めて、机の上でもう一度まどろもうと試みた。

は今、どうしているだろう。
もう話は、伝わってしまっているのだろうか。



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2006/12/23