目の前にいるのが酷く美しくて妖艶で。 儚い美貌の死の使いだと知っていても。 愛してしまったなら死も厭わないかもしれない。 毒娘 「ん・・・ふぁ」 重ねた唇の間から自然と声が漏れる。それが暗い岩室の中で狂ったようにこだました。 蝋燭の明かりで揺れる二人の陰影。岩壁に大きく暗く映ってうごめいている。 ――目を閉じてもわかる所に、相手がいる。 視覚も聴覚さえもいらないような気さえしてくる。 「まさ・・・きぃ・・・ん・・・・・・」 紡いだ名前はその人の唇でまた外に出すことを止められる。 息が十分に吸えなくて頭がぼうっとするのに、それさえも心地よく感じてしまう。 さらさらと聞こえる衣擦れの音。布が肌を滑る感覚。堅すぎる岩の壁。 冷たいはずの岩室の空気が直接触れても、何故か全く寒さを感じなかった。それどころか熱いくらいに体が火照っているような気がする。 柾輝はふと眉をひそめた。 炎の揺らぐ光の下にあらわとなった白い肌。着物や髪の下に隠されていたその肌には、所々に醜い痣やみみず腫れなどが刻みこまれていた。 首筋と肩から始まって鎖骨のあたりや胸、視線をずらせば腕や手首まで傷はある。特にうなじや手首に付いた痣はよく見れば人の指の痕がわかって生々しく、気分が悪い。 柾輝がそれらの傷に手を伸ばすと、が小さく声を上げて身じろぎした。 「結構傷・・・多いな」 「い、色んな人がいたから・・・ひゃ、」 傷を指でなぞればまた声を上げる。 白い肌は傷つけられて確かに一層妖艶に見え、それは他の男が刻み付けていった痕なのだということも忘れさせた。 一度服を脱がせればあとは坂を石が転がるより容易く、我を忘れて行為に耽させるのだ。 「あん・・・っ・・・・・あ、はぁ・・・」 「どこも性感帯だらけじゃねーか」 「ちがっ、きょう、は何か・・・へ、ん・・・・ひゃあん!」 赤い顔で首を振るの言葉を遮るように、柾輝は彼女の秘部に指を入れ込んだ。 もうすっかり濡れているそこは、指を容易にくわえる。 「顔の割に淫乱だな・・・」 「ちが・・・はぁん」 耳の中で濡れた音が大きく響いている。 彼の声は霞がかかったように曇り、何度も何度も頭の中をぐるぐる回り、反響してようやく届く。聞こえてはいるのに何を言っているのかはさっぱり理解できない。 は柾輝を見上げた。 何度もイきそうになるのをその度に止められて、頭の中はおかしくなりそうだ。 生理的に溜まった涙で視界がぼやける。 理性なんてものはひとかけらだってもう残っていない。 「あ、あ・・・ん、はぅ・・・まさき・・・ぃ」 涙の溜まった瞳が、視線で訴えてくる。その求めているものを瞬時に悟って、柾輝は薄く笑みをもらした。 彼女の上気した頬と白い身体が、仄かに桜色に染まっているのが見て取れる。 「・・・入れるぜ?」 彼はの耳元で囁くと入れていた指を引きぬいた。 名残惜しそうに銀の糸を引いて繋がる指に代わって固い異物が入り込む。 一瞬顔をしかめたは、すぐに甘い声を漏らし始めた。 腰に乗った柾輝が動くたび、背筋を得体の知れない衝撃が駆け抜け、身体は今まで以上に中から熱くなっていく。 「・・・んっはぁ・・・もう、だめ・・・」 頭がぼうっとして意識を保っているのも危うい。 最後に意識を引き込まれそうになった時、柾輝の歪んだ顔がやたらと遠くに見えた。回された腕と耳元にかかった吐息。 彼の最後の声は、確かに言葉を紡いでいた。 身体中のけだるさを感じながら、はゆっくりと目を開けた。 白い襦袢は、はだけて隠す目的を見失い、代わりに小袖が軽くかけられている。 ひどく寒いのだけれど、季節の割に岩室内は暖かかった。それも当然で、いつもなら消されているはずの赤い蝋燭が橙の炎を放ちながら明々と燃え続けている。 体にまわされていた彼の腕を持ち上げてはそっと起き上がると、目の前に眠る柾輝の着物に手をかけた。 沈むように暗い黒の着物は自身のそれよりも乱れて皺が付き、浅黒い肌をさらけ出している。 横向きの体を仰向けに変え、彼の体躯が下敷きにしていたその着物に袖をどうにか通させ、襟元の合わせをきちんと直し、細い帯を彼の腹の下で結び直す。それが終わると、は柾輝の手を取って頬にあてた。蝋燭と同じような質感の、冷たくて固い感触が頬に伝わってくる。 少女はふふ、と声を漏らして恍惚の笑みを浮かべた。 2007/05/26 |