空に輝く満月は冷たく青白い光で、煌々と地上を照らしていた。 草は枯れて物寂しいその場所にも、光は平等に降り注ぐ。 何にも等しく。 金持ちにも、病患者にも、罪人にも。 毒娘 縄に繋がれて、岩室に向かう影があった。 繋がれている方は当然のごとく罪人で、死罪になることが決まっている。 連れている方は、先程玲と共にここに訪れた男だ。 罪人は目隠しをされ、半ば引きずられるようにして淋しい裏庭を歩いている。 「・・・刑の執行日までここがおまえの部屋だ」 縄が解かれ、背中を押される。 均衡が保てなくて固い床に倒れこむと、後ろで重い扉が閉まった音がした。 「まったく乱暴な・・・」 とっさに手をつくことが出来たのでどこも打ったところはないが、衝撃として体全体が痛いような気がする。 男は起き上がると目隠しを外した。 橙の明かりがゆれていて、自分の影が大きく壁面に映っている。 反対の壁ぎわにある光源を見ると一人の少女が、今にも消えそうな蝋燭の隣でうずくまっていた。 白い布で隠された目と、白い襦袢で隠された身体。切り縄がぐるりと彼女を拘束している。 炎に照らされている少女の横顔が、陰影と相まって儚げな雰囲気を作っていた。 「へぇ・・・」 男がかつて見たことのないほどに美しい娘だ。 襦袢から出ている白い足と赤い唇が蠱惑的に男を誘う。 「あ・・・」 「静かにしろ」 近寄って頬に指を滑らせると、少女はびくりと肩を震わせた。知ってか知らずか、その声さえも挑発的に岩室に響く。 男が少女の目を覆っていた白布に手を掛けた。大して固くもない結び目をほどくと、黒いつぶらな瞳が現れる。 眩しさのせいか彼女の瞳は濡れたように光り、それを長い睫毛が縁取っている。 「これは上玉だな・・・」 怯えたような目で少女は男を見つめる。 懸命に後ずさろうとするが、固い岩室の壁がそれを阻んだ。 不安と恐怖がないまぜになった表情に理性以外のものが掻き立てられ、男は少女を見つめ返す。 ふっと弱々しかった蝋燭から炎が消え、少女が男から目を逸らした。保たれていた均衡が一瞬で崩れる。 隙間と丸い窓から差し込む月明かりの中、息をつく暇も与えずに彼は少女の唇を奪った。 顔を手で固定し、壁に彼女の身体を押しつけて自由を奪う。縛られていることもあって身動きの取れない少女の口内に何度も舌を絡ませれば、驚きと恐怖で硬直していた彼女の身体から次第に力が抜けていった。 ようやく口を離すと、細い糸が一筋、月光で銀色に反射するのが目に映る。 「はぁ・・・んぁ・・・!」 苦しそうに肩で息をする少女の顔を上向かせる。 合った目の色で、彼女が怯えているのが手に取るようにわかる。 男は笑みを浮かべた。 指に当たっている少女の頬が熱い。 「この縄を解いてやる。・・・代わりに、俺の言うことを聞け」 少女の瞳が揺れる。 彼女が小さくうなずく時、彼は切り縄と共に彼女の帯に手を掛けた。 少女の白い身体は月明かりに映え、暗い岩室の中でぼんやりと浮かび上がって見えた。 露わになった肢体はまだ誰の手も加えられていない生娘のもので、男の目を捕らえる。 上気した頬と濡れた吐息。冷たくない外気温、自身の熱で身体が汗ばむ。 舌を這わせると甘い香りが薫る気がした。 「ふぁ・・・や、・・・・・・・あぁ」 「いいぞ・・・もっと大きく啼けるだろ」 指先に内壁が当たるたび、少女の口から吐息が漏れる。 一つひとつの反応全てが久しぶりの快楽を呼んでいる。 熱くなった指を引き抜いて、絡んだ蜜を口に含んで男は冷たく笑みを向けた。 少女の息遣いが岩室でこだまする。 「・・・・・・・ん、・・・あぁぁ!」 「どうした?」 「や、やめ・・・・・・・いた・・・い、・・・・あぁっ」 身を捩って避けようとする少女の手首をつかんで、固い床に押さえ付けた。 目に溜まった涙が月光を反射して光っている。 「言うことを聞けと言っただろう?」 「ひ・・・は、はい・・・・・あぁんっ」 「それで良いんだ・・・」 泣きながら喘ぐ少女を、男は何度も責め立てる。 やがて満月は傾き、岩室の中から少女の声が消え、男の声も消えた。 青白い光が降り注ぐなか、夜は不気味なほど静かに更けて往く。 2007/01/05 |